大会の決勝で僕は大貫を破って優勝することができた。あれだけ勝ちたいと思っていた大会だったから、さぞやうれしかったろうと思うかもしれない。しかし、現実はむしろ逆だった。 優勝したところで今さら世間が振り向くとも思えなかったけれど、「テレビなら何か変えてくれるかも」という淡い期待を僕は持っていた。
ゲームに対する世間の見方が少しでも変わってくれたら、自分の人生も変わるのではないだろうか。そんな気持ちがあった。 しかし何ひとつとして変わらなかった。むしろ、勝ったことで世間から取り残されているような気持ちが一層強くなってしまった。 現在はかなり和らいだが、当時はゲームへの風当たりがまだまだ強く、僕はゲームに打ち込んでいる自分に負い目を感じながら生きていた。だから、大きな大会に勝ったことでいよいよ「やってはいけないことに誰よりもハマってしまっている」という鬱屈した気持ちを抱えることになった。 自分だけが真面目にやっていて、他の人たちはゲームに対して一線を引いてるのだという気分。今思えば、あの時点で中途半端に認められなかったことが幸いだったとはいえ、当時はちょっとキツかった。
現在の僕は、大会で優勝すること、勝負に勝つことを一番には考えていない。こう思えているのは自分にとって非常に大切なことだ。「ただ勝っても仕方がない」と強く思うようになったのも、このときからかもしれない。
プロデューサーの独り言